田舎に泊まろう(四年)

オタクでありたい

出発と到着

山口に着いた。東京駅を9時に出て、着いたのは14時。

留学先のドイツよりはさすがに近いけれど、それでもやっぱり遠い。

 

四月に配属先を人事から言い渡された。「山口です」と言われた時には戸惑いと困惑しかなかった。行ったこともなければ、縁もゆかりもない土地だったからだ。ただ、県庁所在地なのに結構田舎らしいという情報を手に、私は山口に乗り込んだ。

 

新幹線から降りた新山口駅は、思ったよりも100倍くらい田舎だった。そして自分が住む駅は想像の500倍くらいのどかだった。

 

東京に住んでいた時は、二子玉から丹沢の山が見えるだけで結構遠くに来たもんだと思ったものだが、今はなにせ四方を山に囲まれている。ガタガタした道を大きなスーツケースを持ちながら進んだ。

 

道の周りにある家はほとんどが庭がついた一軒家で、なぜ自分のアパート探しが難航したのかよくわかった。オートロック・二階以上という条件をそれほど難しいものだと思っていなかったのだが、ここでそんな物件はほとんどないのだということを察した。

 

ホテル到着後、街を散策した。国道沿いはなんだかパッとしなかった。鄙びた電気屋さんとか、看板がないラーメン屋とかが妙に目に入ってしまう。ここに何年も住むのかと思うと絶望的な気持ちになった。

中心にある商店街もシャッターが目立つ。昔は流行っていたんだろうという大衆食堂も今はシャッター街の一部となっていた。さびれた街を見ていると、なんだか物悲しい気持になる。ホームシックを忘れたくて散歩しに来たのになあと思った。

 

それでも何かを見つけたくて歩き続けると、そこは突然現れた。

広いテラスがあって、木を基調とした店内のおしゃれなコーヒー屋さんだった。

古びた商店街の中で明らかに浮いているくらい、都会的(これが褒め言葉にするのにふさわしい言葉かわからないけど)なお店だ。私はそこへ吸い込まれるようにして入っていき、本日のカフェオレとチーズケーキを頼んだ。

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コーヒーもチーズケーキもものすごく美味しくて、こういう場所があるならちょっとやっていけるかもと初めて思えた。

 

後からこの記事を見たら、なんて山口を馬鹿にしているんだろうと恥ずかしくなるのかもしれないけど、今はやっぱり東京が恋しいし、少しでも都会的なものをたぐりよせたくなる。いつかここの空気とか、時間の流れとか、環境に慣れていくんだと思うけど、今はまだ少し肌馴染みが悪い。

 

なかなか前向きじゃない自分を認めつつ、少しずつ前に進んでくれると願っている。

好きなもので機嫌を取りながらやっていこうと思う。

 

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これをプリントしようと思ったファミマで同期二人と会ってうろたえた